東京地方裁判所 昭和39年(ワ)8773号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕被告は昭和二八年八月七日本件建物の所有権を取得し、これに居住していた原告、訴外高久クラ、田村進を相手方として家屋明渡の訴訟を提起していたところ、昭和三六年四月二六日当事者間に次の条項による裁判上の和解が成立した。(1)原告高久他二名は本件建物が被告山口の所有であることを確認する。(2)原告等は昭和四〇年四月末日限り各占有部分から退去して被告に対し右建物を明渡す。(3)原告等は和解成立の日から右建物の敷地五八坪八七(本件土地)の使用権が被告にあることを認め、敷地所有者東京都に対し被告名義で賃借し得るよう承認を求めることに協力する。(4)右敷地に対する地代は昭和三六年四月分までは原告が、同年五月分以降は被告が支払う。右和解成立当時は、原被告とも本件土地が東京都の所有であると考えていたが、実はすでに払下げにより訴外土岐不二男の所有となつていたもので、土岐は当時行方不明であつたが、その後右の事実を知つた原告は土岐を探し出して、昭和三八年二月一九日同人から本件土地所有権を取得し、前記和解による本件建物の明渡猶予期限前に、土地所有権に基いて被告に対し本件建物収去土地明渡を求めて本訴を提起した。被告は、右和解成立の経緯からみて原告の請求は信義則に反し権利の濫用であると争う。
判決は、次のように説いて被告の権利濫用の抗弁を容れた。
〔判決理由〕以上の認定事実によれば、原告は本件和解によつて本件土地の使用権が被告にあることを確認し、右土地所有者に対し被告名義で賃借し得るよう承認を求めることに協力する旨約したのであるから、右和解条項の趣旨に鑑みれば、原告は和解後に本件土地所有権を取得した以上、まず被告との間で本件土地の使用権設定に努めることこそ原被告間において導守すべき信義誠実の原則にかなうというべきである。然るに原告は本件土地の所有者が和解当時の原被告の認識と異り、本件建物の前所有者土岐不二男であることを知るや、当時行方不明の同人を探し出し、被告との間で何らの協議を経ることなく、本件和解による明渡猶予期限前に、一方的に本件土地の所有権を取得し、本件建物を占有しながら土地所有者として被告に対し不法占有を理由に本件建物収去本件土地明渡を求めて本訴請求に及んだ(なお昭和四〇年五月二一日原告は強制執行により本件建物を明渡した)ものであるから、原告の本件土地所有権にもとづく本件建物収去本件土地明渡請求権の行使は、信義則に反し権利の濫用として許されないというべきである。(竹田稔)